溶接ヒューム法改正により、溶接作業者が受けなければならない健康診断の内容が変わります。どんな健康診断を受ければよいか?また、どのよう流れで進むのか?知っておきたい情報をまるっと解説いたします。
労働安全衛生法施行令、特定化学物質障害予防規則(特化則)などの改正により、溶接ヒュームを扱う事業者には、以下の健康診断を受診することがが義務付けられました。
・特定化学物質健康診断 <NEW!>
・じん肺健康診断(※金属アーク溶接等作業に常時従事する場合)
上記のように、金属アーク溶接等作業に常時従事する場合は、上記とは別に「じん肺健康診断」の実施(じん肺法第7~9条の2)も必要となります。
特定化学物質健康診断とは、特殊健康診断の一種で、労働衛生対策上特に有害であると判断された化学物質扱う労働者などが受ける必要のある健康診断です。
溶接ヒュームに含有されるマンガンにばく露し続けると、手足の震えやこわばりなどの運動症状を引き起こすパーキンソン病が発症するリスクがあると言われています。
そんなパーキンソン病などの神経障害の発症・悪化を防ぐために設けられたのが特定化学物質健康診断で、他の健康診断に比べてパーキンソン秒に関連する検査項目が手厚いという特長があります。
溶接ヒュームを扱う事業者は、以下の規定に沿って特定化学物質健康診断を実施する必要があります。
・金属アーク溶接等作業に常時従事する労働者に対し、雇入れまたは当該業務への配置換えの際およびその後6月以内ごとに1回、定期に、規定の事項について健康診断を実施する(1次健診)。
・上記健康診断の結果、他覚症状が認められる者等で、医師が必要と認めるものに対し、規定の事項について健康診断を実施する(2次健診)。
・健康診断の結果を労働者に通知する。
・健康診断の結果(個人票)は、5年間の保存が必要。特定化学物質健康診断結果報告書(特化則様式第3号)を労働基準監督署長に提出する。
・健康診断の結果異常と診断された場合は、医師の意見を勘案し、必要に応じて労働者の健康を保持するために必要な措置を講じる。
出典:厚生労働省文書「パンフレット(屋外溶接ヒューム)」より
ここで特に重要なのは、健康診断の頻度です。
溶接ヒュームを扱う作業者に対して、半年に一度定期的に健康診断を受けさせる必要があります。
また、溶接ヒュームを扱う作業者を新たに雇用したり、今雇っていて別の作業をさせている作業員の配置変えを行ない、溶接ヒュームを扱わせることになった場合は、その都度、健診を受けさせる必要あります。
特定化学物質健康診断には、1次健診と2次健診があります。1次検診が全員実施されるものに対し、2次健診は医師が必要であると認めた者だけが受けることになります。
特定化学物質健康診断の項目 | |
1次健診 | ・業務の経歴の調査 ・作業条件の簡易な調査 ・溶接ヒュームによるせき等パーキンソン症候群様症状の既往歴の有無の検査 ・せき等のパーキンソン症候群様症状の有無の検査 ・握力の測定 |
2次健診 | ①作業条件の調査 ②呼吸器に係る他覚症状等がある場合における胸部理学的検査等 ③パーキンソン症候群様症状に関する神経学的検査 ④医師が必要と認める場合における尿中等のマンガンの量の測定 |
出典:厚生労働省文書「パンフレット(屋外溶接ヒューム)」より
厚生労働省の文書では、以下のような者は特定化学物質健康診断を受ける必要があると明記されています。
溶接ヒュームを取り扱う作業に常時従事する労働者などに対して、健康診断を行うことが必要です。
出典:厚生労働省文書「パンフレット(屋外溶接ヒューム)」より
ここで注意したいのは、“常時”とはどれくらいを示すかと言う点です。
たとえば、週5日勤務する人が週4回溶接作業を行ない、残り1日は事務作業をするとしたら、これは“常時”に当たるのでしょうか?
また、1時間ごとに溶接作業と事務作業を交互に行ったら、これは常時に当たるのでしょうか?
“常時”がどれくらいの時間や頻度を指すのかが明記されていないので、解釈が別れうるのです。
この問題について、厚生労働省は文書でこのような回答しています。
常時とはどれくらいの作業時間・作業頻度を指すか?(厚生省回答)
特化則に基づく健康診断に係る対象者についても、作業頻度のみならず、個々の作業内容や取扱量等を踏まえて個別に判断する必要があります。
出典:厚生労働省「210126【HP掲載】改正特定化学物質障害予防規則等Q&A」より
要するに個々のケースを実際に見てみないわからないのでとりあえず健診を受けてみてほしいということです。
自社の工場などに溶接ヒュームを扱う作業者がいる場合は、健診を受けさせる方が無難でしょう。
厚生労働省の文書では、2021年(令和3年)の4月1日から、溶接ヒュームと扱う作業者の特定化学物質健康診断の義務化を始めると明記されています(厚生労働省文書「パンフレット(屋外溶接ヒューム)」より)。
溶接ヒュームを扱う作業者がいる場合、以下のような流れ健康診断を実施するとスムーズです。
1)特定化学物質健康診断を受ける※
2)健康診断の結果を労働者に通知する
3)特殊健診報告書(個人票)を労働基準監督署長に提出す
4)健康診断の結果(個人票)を、5年間保存する
※なお、金属アーク溶接作業などを行う場合は、特定化学物質健康診断に加えてじん肺健康診断も受ける必要があります。
特殊健診報告書(個人票)の提出対象になっている企業では、定期健康診断を実施し、遅れることなく報告書を提出することが法律で義務付けられています(労働安全衛生規則第 52 条)。
特殊健診報告書を抜け漏れなく迅速に記入できるよう、厚生労働省は様式を定めております。以下からダウンロードできますのでご活用ください。
もしも特定化学物質健康診断を受けなかった場合、以下のようなリスクがありますのでご注意ください。
溶接ヒューム法改正では、罰則が規定されており、最大で「懲役6カ月以下または50万円以下の罰金」が科せられる可能性があります(詳細は厚生省ホームページで)。
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