溶接ヒューム法改正により、特定化学物質健康診断が義務化されましたが、健診項目のなかに握力測定があり疑問に持たれたのではないでしょうか?
そこで、この記事では握力測定が必要な理由と有用性をご紹介します。
溶接ヒューム法改正により受診が義務化された「特定化学物質健康診断」ですが、厚生省の資料に記載されているように健診項目の中には握力測定が含まれています。
特定化学物質健康診断の項目 | |
1次健診 | ・業務の経歴の調査 ・作業条件の簡易な調査 ・溶接ヒュームによるせき等パーキンソン症候群様症状の既往歴の有無の検査 ・せき等のパーキンソン症候群様症状の有無の検査 ・握力の測定 |
2次健診 | ①作業条件の調査 ②呼吸器に係る他覚症状等がある場合における胸部理学的検査等 ③パーキンソン症候群様症状に関する神経学的検査 ④医師が必要と認める場合における尿中等のマンガンの量の測定 |
出典:厚生労働省文書「パンフレット(屋外溶接ヒューム)」より
握力測定が必要な理由について具体的に明記された資料はありませんが、測定の理由の一つとしてパーキンソン病の予防・早期発見が考えられます。
産業医学レビューに掲載された専門家の論文には以下のような記載があります。
筋力低下を評価する目的で握力検査が含まれているが、この筋力低下、特に握力などの筋力、生活上の運動強度に関しては、パーキンソン病患者において振戦や筋強剛が生じる5年以上前から始まっていることが示唆されている。
産業医学レビュー「化学物質による神経毒性~マンガンおよび塗膜剥離剤による中枢神経毒性〜」より
パーキンソン病は、マンガンを浴び続けることにより発症される病気の一種で、その患者は比較的早期に握力の低下が始まるという特徴があります。
つまり、定期的に測定を行ない、握力値の低下を確認することができれば、パーキンソン病の兆候をいち早く見つけられる可能性があるのです。
ちなみに、公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センターによると、パーキンソンは以下のように定義されています。
パーキンソン病は手足の動かしにくさ(無動)、震え、こわばりなどの症状を示す進行性の神経難病です。
自然科学研究機構生理学研究所 日本医療研究開発機構プレスリリース「パーキンソン病の症状を引き起こす神経メカニズムを解明」より
握力値の測定は、パーキンソン病の予防・早期発見の助けになるだけでなく、他にも有用性が指摘されています。
たとえば、握力測定は心筋梗塞や脳卒中の発症リスクの判定にも活用できる可能性があるという研究結果を、カナダのマクマスター大学の研究チームが発表しています(参考:保健指導リソースガイド「握力が低下すると心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇 握力が体力の指標に」より)。
このように、握力の数値を測るだけで、さまざまな病気のリスクを判定できる可能性があるのです。
溶接ヒューム法改正により、特定化学物質健康診断は溶接作業者の義務になっています。健診を怠ると、罰則につながる恐れもあるので、定められたタイミングできちんと受けるようにしましょう。
溶接ヒュームを扱う事業者は、以下の規定に沿って特定化学物質健康診断を実施する必要があります。
以下に健診の頻度・タイミングなどをまとめましたのでご確認ください。
特定化学物質健康診断の内容(厚生省文書から抜粋)
・金属アーク溶接等作業に常時従事する労働者に対し、雇入れまたは当該業務への配置換えの際およびその後6月以内ごとに1回、定期に、規定の事項について健康診断を実施する(1次健診)。
・上記健康診断の結果、他覚症状が認められる者等で、医師が必要と認めるものに対し、規定の事項について
・健康診断を実施する(2次健診)。健康診断の結果を労働者に通知する。
・健康診断の結果(個人票)は、5年間の保存が必要。
・特定化学物質健康診断結果報告書(特化則様式第3号)を労働基準監督署長に提出する。
・健康診断の結果異常と診断された場合は、医師の意見を勘案し、必要に応じて労働者の健康を保持するために必要な措置を講じる。
出典:厚生労働省文書「パンフレット(屋外溶接ヒューム)」より
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